2017年06月22日

大量出血時の薬物速度論(完)

回答編というと仰々しいが、私は極めてfundamentalなことを言いたいだけである。


薬物の投与量は、初回のローディングは分布容積に依存し、維持投与量はクリアランスに依存する、という大原則を考えると、治療経過中の用量はクリアランスの変化に依存して変化させる必要がある、ということである。治療経過中に分布容積を考えるとたいてい失敗する。

本件のように10Lが出血したという場合に、速度論的なクリアランスの変化を考える。そのためには、出血時間は何時間だったのか、ということを考える。例えば5時間の出血時間があったとして、まぁムラはあるだろうが、一定した速度で出血していたと仮定すると(well stirred modelのような仮定の仕方になるか?)、2L/hrの速度で出血していたわけである。血漿量ならば1L/hrとなる。血漿が失われるということは、血漿タンパク結合率を無視したクリアランスが得られるので、1L/hrの薬物クリアランスの増加を示すことになる。

ここで、投与量はクリアランスの変化率と一致するという大原則を考える。例えば、オメプラゾールを40mg/dayで投与していたとしよう。1時間当たりの投与量は40×1/24 = 1.7 mg/hrとなる。オメプラゾールのクリアランスは早く、20L/hrなどある。そこに1L/hrの出血クリアランスが5時間だけ加わったとするならば、クリアランスの増分が 21/20 = 1.05 倍なので、その5時間だけ1.7×1.05 = 1.75mg/hrへ増量、/dayで考えれば、1.75-1.7 = 0.05 mg/hrの増分を5時間、つまり0.25mg/dayの増量が必要である、と算出される。これが定量的に考えるというプロセスである。

オメプラゾールのクリアランスが早いためにかなり現実的には無視できる値となった。今度はクリアランスが小さいフェノバルビタールを考えてみよう。
フェノバルビタールは0.5 L/hr程度のクリアランスしかない。ここで100mg/dayで投与していたとしよう。1時間当たりの投与量は100×1/24 = 4.2 mg/hrとなる。フェノバルビタールのクリアランス 0.5 L/h に、1L/hrの出血クリアランスが5時間だけ加わったとするならば、クリアランスの増分が 1.5/0.5 = 3 倍なので、その5時間だけ4.2×3 = 12.6 mg/hrへ増量、/dayで考えれば、12.6-4.2 = 8.4 mg/hrの増分を5時間、つまり42 mg の追加投与が必要である、と算出される。てんかんやけいれん、鎮静コントロールがシビアな場合、私ならば追加投与を考慮する。

10Lという異常な出血と、フェノバルビタールという極度にクリアランスが小さい薬物の関係性でもこの程度の変化しかないことが、論理的な仮説と言える。

ちなみに腹水、胸水による滲出、漏出、熱傷などでも、それぞれ注意点はあるものの、同様の筋道で考えることができるはずである。

もちろん検証することが可能ならばやるべきだが、ヒトではまず無理だろうし、マウスモデルを作成して検証してまで得られるメリットが思いつかない。エビデンスレベルでいうと、A-III、RCTなどの根拠はないが、強く推奨される、といったところか。大量出血マウスモデルなんて扱いづらそうですしねぇ。あるんかな? カテーテルで脱血しながら輸血する、というモデルなら、まぁできないことはないのか。動かれたらカテ抜けそうなんで鎮静必要だけど、鎮静かけると血圧下がって脱血不良になりそう。やっぱり扱いづらそうですね。

今回の記事が、すぐには理解できなくても、目の前の症例があった際に計算する一つの参考になればうれしいですね。
posted by だっちょ at 00:44| Comment(4) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月20日

大量出血時の薬物速度論

6/18はJSEPTIC薬剤師部会セミナーに参加してきた。基礎からしっかり学ぶ機会を得ることができてとてもうれしい。
何より懇親会も楽しかったですね。お会いした方々との出会いを大切にしたいと思います。

さて、よく質問を受けるこの話。大量出血した場合に、薬物の体内への残量をどのように考えることができるのか。
先に答えを述べておくと、多くの場合問題ないことが、速度論の観点から定量的に述べることができる。とはいえ、しっかり考えると個別化医療にもつながることもある。実際にそういうアプローチをしたことがある。

今回の問題の発端は、”大量出血すれば、薬物の大部分が失われて、補充する必要があるんじゃないか” という疑問である。しっかりと定量的に速度論を考えよう。

そのためには、まず目の前の薬物がそもそもどのようなクリアランスや分布容積を持っているかを把握する必要がある。インタビューフォームなどから情報を整理していくことになるが、この作業の精度を上げることが薬剤師としての一つのライフワークであるといえる。極めて基礎的な話をすると、薬物の投与量は、初回のローディングは分布容積に依存し、維持投与量はクリアランスに依存するわけである。

今回のケースは、60kg の患者がベースとして薬物投与が行われていた中で、10 L の大量出血が起きた、ということを考えてみよう。薬物の分布容積の観点からは、最低でも細胞外液以上の分布容積 (0.25 L/kg) を持っている(今回は抗体製剤やグロブリン製剤の話はナシで)。とすると、細胞外液は 15 Lとなる。ならば、66%が除去されるためにしっかりと補充が必要か、という思考になるが、そうなると出血が起きた時点でどの程度の血中濃度があったのか?を考えなければならない。いつ投与して、今何時間たっていて、ということを考え出すと、なかなか答えにたどり着けないだろう。こんなことは毎回やっていてはならない。
ちなみに10Lの出血が起きた場合、血液量×(1-ヘマトクリット値) が血漿量になる。血球成分に分布しない薬剤(ほとんど)であれば、血漿量を考慮しておく必要がある。ヘマトクリット 50 % で 5 Lの血漿量になる。そうなると、33 % の除去になるのか。ちょっと影響が小さくなった。そもそも10L出血は異常であり、そもそもの血液量を超えているので、じゃんじゃん輸血している状態ではある。ということは、出血中にどんどん血液中濃度が薄まるので、最初想定した血中濃度よりもどんどん小さくなっているよね、、、じゃあ除去量はさらに小さくなる。どのくらい??  あれれれ??

という風に、ドツボにはまっていってはならない。つまり、ここで発想をしっかり転換していこう。その回答編は、また後日、ということで・・・

すいません、今日はもう眠いのです(^^;)
posted by だっちょ at 01:23| Comment(1) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月08日

お疲れ様でした:第91回日本感染症学会総会・学術講演会 第65回日本化学療法学会学術集会

今回も多くの情報交換が出来て、多くの方とつながりが出来た学会でした。ACIDに参加していただいた皆様も本当にありがとうございました。ACIDはお互いの研究成果を提示しあい、建設的な議論からさらに良いものにしようという薬剤師の集まりです。これからもよろしくお願いします。


それと一つ追加で記事を書いておきます。2日目朝の特殊病態のシンポジウムの最後のセッション。HMD先生による肥満病態下の適正投与量の考え方がとてもわかりやすくて、勉強になりました。肥満と高体重は別であり、何が違うかが理解出来れば、定量的な投与設計ができるはずです。
そして最後に質問した点について、私の質問内容も十分でなかったと思うし、その真意などを理解していない聴衆の方も多かったと思うので、追記しておきます。ちょっと難しい内容であることに変わりはないので、そこをわかってもらうように説明することは、とてもchallengingです!

 質問は”基本的に維持投与量はクリアランスの変化を基に決定するべきなのに、今回のアミノグリコシド系薬は体重で決めている。その点どうお考えでしょうか。”ということなのだが、私の質問の仕方の失敗は、”肥満という病態下”の点を十分に質問内容の言葉に含めなかったことだ。大変申し訳ない。

 肥満の場合のクリアランスの変化について、HMD先生はしっかりと講演の中で述べておられる。ただ、アミノグリコシド系薬のピーク値を有効域に入れるために、分布容積の推定の点に絞って、わかりやすく説明しておられたわけである。特殊病態下における投与設計のシンポジウムとして、他の先生方は(私は最後しか聞けてないが)クリアランスの変化について維持投与量の調節の方法を述べておられたはずだ。CRRTにしろ小児にしろ、腎機能障害にしろである。では、肥満の場合に考えるべき維持投与量の調整はどのようなものがあるのか。

 アミノグリコシド系薬のPK/PDのターゲットとして、当然ピークを上昇させなければならないが、”それだけ”を考慮しすぎることには懸念するべきである。ピーク値で評価するために重要なことは、あくまで臨床薬理の根幹であるAUCが保てている、そろっていることである。仮に分布容積が通常と変化ない(0.25L/kg程度)で、クリアランスが500mL/minにまで上昇していたらどうだろうか。このくらい極端なところで考えてみるとよくわかる。一瞬だけピークが目標血中濃度に到達した段階で血中濃度を測定して”よしよし”、トラフ値で検出限界以下の値を測定して”よしよし”としているのは大きな誤りであることが容易に想像できるであろう。半減期は1/5に短縮し、すぐさまMICを下回り、その時間がずーっと続く、という血中濃度推移を予想できると、とても治療効果が得られないと考えることが正常の思考回路である。

 ”500mL/minは極端ですよ、だっちょさん!”という意見は最もで、そりゃ当たり前である。ならば、どの程度上昇すれば問題となるのか、そこを議論するべきである。アミノグリコシド系薬の場合、100%腎糸球体ろ過によって排泄される。すなわち、肥満の状態において、どの程度糸球体ろ過速度が上昇するのか、を考えればいいわけである。
今回のご講演の中で紹介していた論文をメモり忘れたが、例えばGFRは非肥満患者と比較してGFRと腎血流量はそれぞれは61%、32%上昇していたとの報告がある(Chagnac et al. J. Am. Soc. Nephrol. 2003; 14: 1480-1486)。ならば、投与量は1.5倍に上昇させるべき、と言えるわけであり、ここまで変化があるならば問題となると言える。昨今いわれているARCなどは、Ccrが1.2-1.5倍程度の上昇でやいやい議論がされているわけであるのに、このアミノグリコシド系薬は問題ないとは言えないはずである。

 じゃあ1.5倍の投与量増分をどこで補うか、という議論に移る。単純に1回投与量を上昇させても、その後の消失が早すぎれば効果は薄い。それに基本的に今のPK/PDの目標値は、最大殺菌効果が得られるところとなっているので、あまり上げすぎても効果増は得られない。となると、もっとも効果的な投与方法は、1回投与量は1.5倍に上昇させるが、ちょうどよいピーク濃度が得られるように、点滴時間を長めに設定することである。その点滴時間を設定するためには、各種ソフトウェアが効果を発揮するだろう。

こういうことが出来るのが薬剤師であり、医師にそのロジックと必然性を説明することで、よい信頼関係が築けるはずである。

この説を証明することは並大抵のことではない。アミノグリコシド系薬という使用量の少ない薬剤を、高度肥満という病態の集団で、証明された感染症を抽出して、アミノグリコシド系薬単剤で治療する必要があるためである。そして肥満患者とGFRの関係のモデルもしっかりと構築しなければならないし、除脂肪体重などの概念を取り入れることが良いと思われる。多施設共同試験を組まねば無理であろう。ただ、極めてchallengingなので、もしも興味がわいた先生がいらっしゃれば、ぜひ一緒にしませんか。




皆様今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
posted by だっちょ at 23:13| Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月12日

薬剤師の医系学会での在り方を憂う

先日、初めて集中治療医学会@札幌に参加してきた。今回はシンポジウムも薬剤師のものが多く組んであったり、今までに無い薬剤師の参加者数があったりなど薬剤師の活躍が目に留まり、“薬剤師元年”などと表現して先生方もおられた。ただ、私は今回の学術集会に参加するに、むしろ”今後の薬剤師は危うい”と思ってしまった。

医系学会の中で薬剤師がそこまで力を発揮できるのは異例である。化療学会に次いで、大きなことであろう。そのあと、○○薬学会などになり、独立してしまうことも多い。独立は医師に薬剤師の力をアピールする機会を失うだけなので、全く良くないと思う。くれぐれも集中治療薬学会など出来ないことを祈る。

ただ、勘違いしてはならないのは、今年は薬剤師元年などではなく、ゼロ年と考えた方が良い。医師から薬剤師に向けて“チャンスを与えてくれた”に過ぎないのである。まだまだ試用期間なのであり、試用期間でのアピールを失敗すれば、元年など永遠に来ない。本年の学術集会を持って集中治療における薬剤師の立ち位置を“確立した”などと唱えるならば大きな勘違い野郎である。

これまで集中治療における薬剤師をアピールするような成果が出て来ているのは素晴らしいことである。そしてそれらが継続しつつあるからこそ、今年の学会ではチャンスをもらえたのである。そのチャンスを活かすにはどうすれば良いか。それはもちろん質の高い議論を展開して、よいエビデンスにつなげることである。大変失礼かもしれないが、今年の演題発表を拝見するに、充分なエビデンス、またはそれに繋がるような発表は見つけられなかった。と、いうことは、今後の集中治療医学会における薬剤師の時間は削られてもおかしくないということである。集中治療医学会において他にも議論すべき領域は山ほどあるし、存在をアピールしたい団体はたくさんある。検査や栄養、工学技士などある。そんな彼らにせっかくのシンポジウムなどの時間をとられないよう、危機感をもってやらねばならない。

薬剤師が医系学会で頑張って発表することは評価に値する。学術的に一生懸命に考えて報告してくれたわけである。しかし、そこで止まってしまっては無意味、もしくは学会や社会に向けて悪影響にしかならない場合も多い。だからこそ議論が必要なのである。医師、学会、社会のために、忌憚のない、時には厳しい、議論を重ねて、いい方向にもって行こうとする議論を展開しなければならない。そうすれば、医師を含め他職種から、“薬剤師にセッションを与えて良かった、当然だな”という評価に繋がるであろう

今回、いくつかの質問や意見を出したが、それについて、厳しい質問だった、などと話しかけてくれた聴講者もいた。そういう意見を聞くからこそ今回こんな記事をつい書いてしまった。
これは集中治療医学会に限る話ではない。

多くの薬剤師に問いたい。薬剤師の評価を高めるために、医系学会であるべき姿を。
posted by だっちょ at 20:27| Comment(2) | 薬剤師 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月01日

ワークショップのお知らせ

案内ばっかりで恐縮ですが、よろしければお越しください。
しかしACIDカンファレンスの翌日の朝っぱら第一号というのは、自身のコンディションも最悪ですし、聴衆の集まり具合も今一つですかねぇ。。。


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平成29年4月6日〜9日 東京都新宿区 京王プラザホテル
第91回日本感染症学会総会・学術講演会
第65回日本化学療法学会学術集会 合同学会

ワークショップ2
4月7日(金)8:50〜10:50
第6会場(南館4階錦)
「抗菌薬の適正使用,当院の取り組み」
司会:木村利美(東京女子医科大学病院薬剤部)
徳江 豊(群馬大学医学部附属病院感染制御部)
1.Antimicrobial Stewardship 推進のためのデータベースソフト“PASSION”の開発と有用性の評価
熊本大学医学部附属病院薬剤部,熊本大学医学部附属病院感染制御部 尾田一貴

2.菌血症診療における Active Consultation の有用性の検討
富山大学附属病院感染症科 東 祥嗣
3.介護療養型医療施設における多剤耐性菌の現状と対策―慢性期療養病床からみた抗菌薬適正使用―
新京浜病院 有馬陽一
4.地域の基幹型急性期病院における抗菌薬適正使用のとりくみ
埼玉協同病院内科 山田歩美
5.小児の抗菌薬適正使用管理プログラムの効果
東京都立小児総合医療センター感染症科 山中崇之
6.病院・職種情報連携の抗菌薬適正使用(AS):地域 4 病院 5 年間で抗菌薬使用・血液培養の密度,緑膿菌の感受性をアウトカムに
感染対策ネットワーク下関:下関市立市民病院,下関医療センター,関門医療センター,下関総合病院,下関市立市民病院感染管理室 吉田順一
7.最近 4 年間のカンジダ血症治療の現状―AST による抗真菌薬適正使用支援に向けて―
名古屋記念病院 AST,名古屋記念病院薬剤部 和知野千春
posted by だっちょ at 20:00| Comment(2) | 案内 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする