2017年10月15日

小児腹膜透析(PD)患者に対するバンコマイシン投与量調整の考え方について

9kgの小児に対して、初回に腹膜透析液からのVCMを投与した量が135mgであり、連日PDを行った後、48時間後に18 mg/Lの血中濃度が得られた、という場合、どの程度補充するべきか、という考え方を示す。

もしも投与後に血中濃度が消失していない(ほぼ横ばい)と仮定すると、分布容積は135/18 の式により7.5 Lとなる。ということは、患者の体重が8kgということを考慮すると、0.83 L/kgの分布容積を持つことになる。しかし、小児のVCMの分布容積は大きくても0.6 L/kg程度なので自尿などでのクリアランスがあるのかもしれないと考えておき、0.6 L/kgの式により得られる推定分布容積 5.4 L でかんがえると、投与後の最大血中濃度は 135/5.4 の式により25 mg/Lが得られているはず、と考える。すると、PDを含めて48時間の時間をもって 25 → 18 への減少が得られたので、48時間で72%に減少するといえる。

すると、目標血中濃度を 15 mg/L とするならば、48 時間後に72%へのダウンを見越して、投与後は 15/0.72 の式により投与後は 20.8 mg/Lの血中濃度が得れていればよいという計算になる。今18 mg/Lの血中濃度なので、 20.8 - 18 の式により、2.8 mg/L の血中濃度増加を期待する必要がある。分布容積は 5.4 L を推定しているために、2.8×5.4の式により、15mgの追加投与が必要になると計算される。その次はきっと15 mg/Lを示していると思われるので、20.8-15 の式により、5.8 mg/Lの血中濃度増加を得るためには、5.8×5.4 の式により31.3 mg/Lの補充が必要にあるというわけである。これが維持量である。

より細かい話をするならば、どの程度吸収されるかを考えるとより精密になる。

実は透析液と分布容積の比を計算すると、投与量に対する吸収量を判断することが出来る。今、使用する透析液をX、分布容積をVdとするならば、VCMの混入されたXと、混入していないVdが合わさった場合、あくまで濃度勾配によって吸収を受けることとなる。すなわち、X+Vdの容積で、平衡状態に達することになる。つまり、吸収量は、Vd/(X+Vd)ということになる。通常バンコマイシンならば、XはVd(5.4 L) に比べて十分に小さいはず(1/20等)なので、その点は普通考慮する必要がない。
さらに細かい話をすると、実は、体循環されている薬物も、同様に平衡を受ける。つまり、18 mg/Lの血中濃度が、Vd)/(X+Vd)の式により平衡を受ける。1/20の比があるならば、18 mg/Lの血中濃度はその過程で5 % が減少することになる。これはかなり少量(17.1 mg/L)なので無視できるというわけである(これが腹膜透析における薬物除去の本質)。やや平たく言えば、腹膜透析液量×現在の血中濃度で除去される量(mg)がわかる。ただし、遊離体分率もちゃんと考えると、より影響は少ないことは理解できよう。

一方で、遊離体分率が低く、極端に分布容積が小さい薬物を扱う場合は、この平衡を考慮する必要がある。なぜなら、さっきの分布容積 0.83 L/kgはあくまでVd/Fであり、吸収率の低下による見かけ上の増大とも言えるためである。この場合、吸収率は0.6 / 0.83 により、吸収率は72 %といえることができるので、もしもXとVdの日が1:2程度のものがあるのならば、この吸収率に合致する。




というかなりコアだけども貴重な事例。他の事例を数値を変えて記載しました。
腹膜透析の場合、ガイドラインがないとか言う前に、自分で計算した方が正確だし、どこによくわからない点があるかも気づく(小児腹膜透析患者における体重当たりの分布容積など)。こういう点についてPubmedで調べてみると、

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日本人の報告ゼロ

分布容積さえわかれば、より正確な投与設計が出来るんですが、難しいところですね。
posted by だっちょ at 12:45| Comment(0) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月30日

CRRT 時のセファクロルの投与量を考察する。

今回は大腸菌尿路感染症に対するCRRT時のセファクロルの投与量について考察してみる。

まずゴールドスタンダードの1つである某SRSG病院ガイドラインを拝読するに、透析患者では250mg 1日2回とある。保存期腎不全ではCcr 10-50 mL/minで250mg×3, Ccr 10 mL/min以下で250mg×2とある。なるほど。ただし、その根拠を見ると、どうも大きな根拠ではないようだ。

インタビューフォームで薬物動態を評価してみる。む、クリアランスが記載されていない。そこで単回投与時のAUCからクリアランスを評価してみる。250mg投与時のAUCが9 μg・hr/mL のようだから、CL=Dose/AUCの式で、250000μg/9 = 28 L/hr。
経口なので正しくはCL/F = 28 L/hrとなる。バイオアベイラビリティを調べてみると、これまた記載がない。尿中排泄率をみると72-74%などある。考えやすいように75%としておこう。割と尿中排泄率が高いことを考慮すると、少なくとも吸収率は75%以上ありそうだ(吸収されないと尿中排泄されないため)
適当にググってみると、93%のバイオアベイラビリティとの記載も見つかる。pubmedで検索するがこの情報の基は見つけられなかった。ひとまずこの情報を採用し、考えやすいように90%とする。

ということは、純CLは28L/hr×0.9で25 L/hrということか。大きいな。腎排泄率Ae = 75 % とすると、腎クリアランスが18 L/hr, その他クリアランスが 7 Lhr程度となる。

そこでAKIにより腎機能が廃絶した場合の投与量について考えると、腎クリアランス 18 L/hrがほぼゼロになると考えると、体クリアランスは7 L/hr程度まで低下することになり、ここで投与量は25 % まで減らして良い計算になる(Aeの逆と考えてよい)。さらにCRRTを考慮するならば、排液流量 600mL/hrとするならば、血漿蛋白結合率が 25 % 程度のようなので、CRRT クリアランスで450 mL/hr = 0.45 L/hrが得られる。
7L/hrに0.45 L/hを足しても大差ないので、これはつまりCRRTでの投与量調整は必要ないことになる。

さて、では7L/hrの腎外クリアランスがどこまで正しいのか。
Int J clin pharmacol biopharm 1979 17 397-400 によると、尿細管分泌クリアランスは18 L/hr ほどあると書いてある。む、さっきの腎クリアランスそのものではないか。血漿蛋白結合率 25 % を考慮すると、糸球体濾過によるクリアランスは 4 L/hrほどはありそうなので、腎クリアランスは22 L/hr程度になりそうである。この文献には、尿中で分解もしているために、腎クリアランスを過小評価している可能性があると指摘されている。再吸収の可能性もあるが、いずれにせよ、先ほど算出した7L/hrの腎外クリアランスはおそらく最大値で、より小さいであろうことを推測しておく必要があろう。腎機能低下に伴って腎外クリアランスまでも低下する薬物はたくさんある。そこで、感覚的ではあるが、ここは3 - 7 L/hr、ええい、5 L/hrの腎外クリアランスとしておこう。

そうなると、25 L/hrの健康人に対して、CRRT患者のクリアランスは 5 L/hr程度なので、投与量は1/5 までは減量できる、という計算になる。この濃度推移をBMs-Podで確認しておこう。

分布容積 0.2L/kg, 体重 60 kgとして、健康成人クリアランス25 L/hrでは、500mg 8時間おきではトラフ値は0.001μg/mL程度になる。これはインタビューフォームでも確認される。そもそも100% の%T>MICが必要なわけではないので、とりあえずよい。としておく。
一方クリアランス5L/hrで、SRSGガイドラインのように250mg×2とすると、トラフ値0.2μg/mLとなる。上昇した。1/5ではなく1/3(1500mg/日⇒500mg/日)にしか投与量を減らしてないので、上昇するのは当然である。ただ、MICを考えるとどうか。

インタビューフォームからみるE.coliのMIC90は3 mg/Lとある。MIC 3 mg/Lでは、血中 %T>MIC 43 %となる。遊離体を考慮すると 30 % 程度か。一般的なセファロスポリン系薬の目標%T>MIC 60-70% と考えると、これではいかんか。


250mg×3では、トラフ値 1.0 μg/mL, %T>MIC 66 %、遊離体で50 % 程度か。やや低めではあるが、食後投与で吸収を遅らせることが出来るために、もう少し大きめの値が得られそうである。また、尿中では、腎機能障害があるとはいえ、尿は出ている。2 mL/min程度の糸球体ろ過速度があれば、尿中濃度は2倍にはなるので、何とかなるのではないか。まあこれでいこうか。


という流れで投与設計します。なんか所か仮定がありますが、そう的外れなことは言ってないと思います。仮定を重ねているので学術的には証明には至りませんが、臨床的な判断としては妥当でしょう。

実はこの流れで健康成人で、MIC = 3 mg/Lの場合、500mg×3で%T>MICは22%程度になります。あまりよろしくありませんが、一般的には治療できるとされています。免疫が正常な方なら大丈夫なんでしょうが、免疫が弱い方は、しっかりとした投与量が望ましいでしょう。ちなみにS.pyogenesのMIC90は0.2 mg/L程度なので、特に問題ありません。

なんで今回セファクロルを出したかというと、バイオアベイラビリティが高いと、必ずしも効果が高いというわけではなく、あくまでpharmacodynamics(PD)との兼ね合いということを意識するべきと思うためです。


それとタイトルに対する結論ですが、
CRRT 時のセファクロルの投与量調整は特に気にする必要はなく、CKDステージなどで判断して良い、です。
posted by だっちょ at 12:07| Comment(0) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月14日

CRRTと薬物動態と薬剤師

2017年9月9日に、福岡で臨床工学技士向けの研修会で、“CRRT時の薬物動態”というタイトルで特別講演を仰せつかっております。クローズの会なので詳しくは明かせません。
過分なタイトルですが、臨床工学技士さん達は恐らく、薬剤師が一般に知っていることと受けとめるでしょうが、そうは考えて欲しくはないと伝えておきます。むしろお互いの専門性を発揮してコラボしましょうと伝えておきます。
残念ではありますが薬剤師はCRRTは苦手です。もちろん薬学教育にもなく薬物動態の応用編ですし、とあるメーリスでもそう判断されました。私も集中治療室で勉強したからこそ話せる内容です。

ここでは、CRRT時の薬物投与量調整の3つの誤解をコアテーマとして話をしようと思います。どれか1つでも興味を持ったなら、いつか議論しましょう(^^)

誤解@ CRRTの浄化量によるCcrで、全ての薬物投与量を計算する。
誤解A 肝代謝型薬物は、CRRT時には投与量調整は必要ない。
誤解B 分布容積の大きな薬物は、投与量調整は必要ない。



ちなみCRRTの投与量調整に関する問合せはは、集中治療室だけでなくて薬剤部にも来ますよね。集中治療室担当薬剤師だけが知ってればいい話ではないはずです。

「質問はICUだけに来るんじゃない! 薬剤部にも来るんだー!」
posted by だっちょ at 23:26| Comment(0) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月22日

大量出血時の薬物速度論(完)

回答編というと仰々しいが、私は極めてfundamentalなことを言いたいだけである。


薬物の投与量は、初回のローディングは分布容積に依存し、維持投与量はクリアランスに依存する、という大原則を考えると、治療経過中の用量はクリアランスの変化に依存して変化させる必要がある、ということである。治療経過中に分布容積を考えるとたいてい失敗する。

本件のように10Lが出血したという場合に、速度論的なクリアランスの変化を考える。そのためには、出血時間は何時間だったのか、ということを考える。例えば5時間の出血時間があったとして、まぁムラはあるだろうが、一定した速度で出血していたと仮定すると(well stirred modelのような仮定の仕方になるか?)、2L/hrの速度で出血していたわけである。血漿量ならば1L/hrとなる。血漿が失われるということは、血漿タンパク結合率を無視したクリアランスが得られるので、1L/hrの薬物クリアランスの増加を示すことになる。

ここで、投与量はクリアランスの変化率と一致するという大原則を考える。例えば、オメプラゾールを40mg/dayで投与していたとしよう。1時間当たりの投与量は40×1/24 = 1.7 mg/hrとなる。オメプラゾールのクリアランスは早く、20L/hrなどある。そこに1L/hrの出血クリアランスが5時間だけ加わったとするならば、クリアランスの増分が 21/20 = 1.05 倍なので、その5時間だけ1.7×1.05 = 1.75mg/hrへ増量、/dayで考えれば、1.75-1.7 = 0.05 mg/hrの増分を5時間、つまり0.25mg/dayの増量が必要である、と算出される。これが定量的に考えるというプロセスである。

オメプラゾールのクリアランスが早いためにかなり現実的には無視できる値となった。今度はクリアランスが小さいフェノバルビタールを考えてみよう。
フェノバルビタールは0.5 L/hr程度のクリアランスしかない。ここで100mg/dayで投与していたとしよう。1時間当たりの投与量は100×1/24 = 4.2 mg/hrとなる。フェノバルビタールのクリアランス 0.5 L/h に、1L/hrの出血クリアランスが5時間だけ加わったとするならば、クリアランスの増分が 1.5/0.5 = 3 倍なので、その5時間だけ4.2×3 = 12.6 mg/hrへ増量、/dayで考えれば、12.6-4.2 = 8.4 mg/hrの増分を5時間、つまり42 mg の追加投与が必要である、と算出される。てんかんやけいれん、鎮静コントロールがシビアな場合、私ならば追加投与を考慮する。

10Lという異常な出血と、フェノバルビタールという極度にクリアランスが小さい薬物の関係性でもこの程度の変化しかないことが、論理的な仮説と言える。

ちなみに腹水、胸水による滲出、漏出、熱傷などでも、それぞれ注意点はあるものの、同様の筋道で考えることができるはずである。

もちろん検証することが可能ならばやるべきだが、ヒトではまず無理だろうし、マウスモデルを作成して検証してまで得られるメリットが思いつかない。エビデンスレベルでいうと、A-III、RCTなどの根拠はないが、強く推奨される、といったところか。大量出血マウスモデルなんて扱いづらそうですしねぇ。あるんかな? カテーテルで脱血しながら輸血する、というモデルなら、まぁできないことはないのか。動かれたらカテ抜けそうなんで鎮静必要だけど、鎮静かけると血圧下がって脱血不良になりそう。やっぱり扱いづらそうですね。

今回の記事が、すぐには理解できなくても、目の前の症例があった際に計算する一つの参考になればうれしいですね。
posted by だっちょ at 00:44| Comment(4) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月20日

大量出血時の薬物速度論

6/18はJSEPTIC薬剤師部会セミナーに参加してきた。基礎からしっかり学ぶ機会を得ることができてとてもうれしい。
何より懇親会も楽しかったですね。お会いした方々との出会いを大切にしたいと思います。

さて、よく質問を受けるこの話。大量出血した場合に、薬物の体内への残量をどのように考えることができるのか。
先に答えを述べておくと、多くの場合問題ないことが、速度論の観点から定量的に述べることができる。とはいえ、しっかり考えると個別化医療にもつながることもある。実際にそういうアプローチをしたことがある。

今回の問題の発端は、”大量出血すれば、薬物の大部分が失われて、補充する必要があるんじゃないか” という疑問である。しっかりと定量的に速度論を考えよう。

そのためには、まず目の前の薬物がそもそもどのようなクリアランスや分布容積を持っているかを把握する必要がある。インタビューフォームなどから情報を整理していくことになるが、この作業の精度を上げることが薬剤師としての一つのライフワークであるといえる。極めて基礎的な話をすると、薬物の投与量は、初回のローディングは分布容積に依存し、維持投与量はクリアランスに依存するわけである。

今回のケースは、60kg の患者がベースとして薬物投与が行われていた中で、10 L の大量出血が起きた、ということを考えてみよう。薬物の分布容積の観点からは、最低でも細胞外液以上の分布容積 (0.25 L/kg) を持っている(今回は抗体製剤やグロブリン製剤の話はナシで)。とすると、細胞外液は 15 Lとなる。ならば、66%が除去されるためにしっかりと補充が必要か、という思考になるが、そうなると出血が起きた時点でどの程度の血中濃度があったのか?を考えなければならない。いつ投与して、今何時間たっていて、ということを考え出すと、なかなか答えにたどり着けないだろう。こんなことは毎回やっていてはならない。
ちなみに10Lの出血が起きた場合、血液量×(1-ヘマトクリット値) が血漿量になる。血球成分に分布しない薬剤(ほとんど)であれば、血漿量を考慮しておく必要がある。ヘマトクリット 50 % で 5 Lの血漿量になる。そうなると、33 % の除去になるのか。ちょっと影響が小さくなった。そもそも10L出血は異常であり、そもそもの血液量を超えているので、じゃんじゃん輸血している状態ではある。ということは、出血中にどんどん血液中濃度が薄まるので、最初想定した血中濃度よりもどんどん小さくなっているよね、、、じゃあ除去量はさらに小さくなる。どのくらい??  あれれれ??

という風に、ドツボにはまっていってはならない。つまり、ここで発想をしっかり転換していこう。その回答編は、また後日、ということで・・・

すいません、今日はもう眠いのです(^^;)
posted by だっちょ at 01:23| Comment(1) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする