2015年07月01日

抗菌薬適正使用はめまぐるしく変化する薬物動態を把握しなければ達成不可能である

今回問題にしたいことはどういうことか。バンコマイシンの血中濃度が最大量投与しても上がらないということは、何らかのクリアランスの亢進が起きていると考えることが自然である。この場合、その亢進のメカニズムがどのようなものなのかを考えれば、現在話題になっているAugmented renal clearanceを考えざるを得ない。

その機序は、心拍出量の増大などにより生じる腎血流量等の増大によるものであると推察されている。もしもこの機序が正しければ、バンコマイシンのクリアランスの亢進は、そのままGFRの増大を示していると言える。同時に、ARCは現在腎機能のことを考えられているが、他にも肝血流量などにも生じうる可能性があるとしている(AHC?)。その場合、肝代謝型の薬剤の中でも、肝血流依存型の薬剤がもろに影響を受けるわけである。

とりあえず肝代謝型の話はおいておいても、ならばリネゾリドやダプトマイシン、テイコプラニンならばどうなのという話題となる。どうなのといわずもがな、どれも影響を受けると考える方が妥当である。テイコプラニンに変更するとするならば、バンコマイシンでは増量は懸念されてしまうが、テイコプラニンの増量は許容しますよと言っていることと同様である。テイコプラニンはバンコマイシンよりも副作用が少ないとされており、多くの方が実感として持っていると思われる。そういう意味では、増量を許容するのは理にかなっている。

じゃあリネゾリドやダプトマイシンはどうなのか。ARCの概念はバンコマイシンやβラクタムでよく言われるところであるが、実はこれらの薬剤でもそれらしい報告がある。

リネゾリドの血中濃度が低値を示すとの報告
Crit Care. 2014 Jul 10;18(4):R148.
Variability of linezolid concentrations after standard dosing in critically ill patients: a prospective observational study.
Zoller M, Maier B, Hornuss C, Neugebauer C, Döbbeler G, Nagel D, Holdt LM, Bruegel M, Weig T, Grabein B, Frey L, Teupser D, Vogeser M, Zander J.
PMID:25011656

→この報告については、ARCの第一人者に近い研究グループからすぐにコメントがきていた。同意とのことだ。
Crit Care. 2014 Sep 15;18(5):525.
Therapeutic drug monitoring: linezolid too?
Richards GA, Brink AJ.
PMID:25673559

ダプトマイシンは症例報告ではあるが存在する。
Infection. 2014 Feb;42(1):207-10. doi: 10.1007/s15010-013-0511-2. Epub 2013 Jul 25.
Daptomycin underexposure in a young intravenous drug user who was affected by life-threatening Staphylococcus aureus-complicated skin and soft tissue infection associated with bacteraemia.
PMID: 23884723



ということは、血中濃度が低いから治療できない、との考察からoptimizationを計る場合に、単純に薬剤を変えるだけでは駄目だということになる。私はこういう場合、バンコマイシンの持続投与を行うことが妥当ではないかと考えている。テイコプラニンの増量もよいと思う。むしろリネゾリドやダプトマイシンに変更すれば、問題点の盲目化を引き起こすだけで、何の解決にもなっていないと思うし、薬剤師としての介入に失敗していると思う。

こういう場合、リネゾリドやダプトマイシンのTDMを行って、十分量まで引き上げなくてはならない。血中濃度が低いという報告があり、そのロジックも推定ながら示されている中、これらの薬剤のTDMはやらなくてもよいというのは、本当に患者のことを考えているのかと不安に思う。
たぶんARCが起きているから増量する、とすれば、本当は増量が必要ない患者に対しても増量すればそれは有害事象の可能性もあるし、なんせこれらの薬剤は高いために、本当に必要な患者をTDMで洗い出して増量するようにした方が、医療経済学的にもよいはずである。
posted by だっちょ at 14:56| Comment(4) | 感染症 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする