2017年08月14日

CRRTと薬物動態と薬剤師

2017年9月9日に、福岡で臨床工学技士向けの研修会で、“CRRT時の薬物動態”というタイトルで特別講演を仰せつかっております。クローズの会なので詳しくは明かせません。
過分なタイトルですが、臨床工学技士さん達は恐らく、薬剤師が一般に知っていることと受けとめるでしょうが、そうは考えて欲しくはないと伝えておきます。むしろお互いの専門性を発揮してコラボしましょうと伝えておきます。
残念ではありますが薬剤師はCRRTは苦手です。もちろん薬学教育にもなく薬物動態の応用編ですし、とあるメーリスでもそう判断されました。私も集中治療室で勉強したからこそ話せる内容です。

ここでは、CRRT時の薬物投与量調整の3つの誤解をコアテーマとして話をしようと思います。どれか1つでも興味を持ったなら、いつか議論しましょう(^^)

誤解@ CRRTの浄化量によるCcrで、全ての薬物投与量を計算する。
誤解A 肝代謝型薬物は、CRRT時には投与量調整は必要ない。
誤解B 分布容積の大きな薬物は、投与量調整は必要ない。



ちなみCRRTの投与量調整に関する問合せはは、集中治療室だけでなくて薬剤部にも来ますよね。集中治療室担当薬剤師だけが知ってればいい話ではないはずです。

「質問はICUだけに来るんじゃない! 薬剤部にも来るんだー!」
posted by だっちょ at 23:26| Comment(0) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月26日

抗菌薬おさらい帳に関するQ & A

先日こんな質問を受けた。なかなかeducationalなので、公開します。

Q.透析患者の場合、の項目で『透析はあくまで血液(細胞外液)の浄化のみ』とあるのですが、細胞外液ということは間質液も透析されるということでしょうか。0.2l/kgの細胞外液で説明があってて、《血液透析なら血液だけで0.05l/kg》が除去されるから0.05/ばんこの分布容積0.6で8パーセントが除去されるとならないんですね?血液と間質液の間の水の行き来はそんなに激しいのでしょうか。ながくなりすみません、つい気になって。。

A.血管内に入った水がどのように移動するかを考えると理解できます。水は体の中で物質を運ぶ担体として存在していますので、どこにでも自由に移動することができます。ただその移動様式は場所場所ごとに様々です。血管から血管外に移動するときは、単純に多孔性の血管壁を通るだけですので、スムーズに外に出ていきます。なんのエネルギーも必要ありません。出ていった先が、間質液になります。その水を担体として、様々な物質が血管外に運ばれます。孔を通るだけですのでたいていスムーズに移動します。しかし、もちろん物が大きければ大きいほど移動が鈍くなります。血管壁の孔の半径は30-35Å程度とされており、分子量69000のアルブミンは半径が36Åですから、基本的には通過できません。逆に、通常の低分子(水:MW=18, 薬物:100-2000)であれば、ほぼ問題なく通過できるわけです。
ほかに水の移動様式は、濃度勾配によるもの、トランスポーター(アクアポリン)によるもの、が一般的です。

ここから先はアンサーしていない追記です。アルブミンは上記のとおり血管外には出ないとなっていますが、実際には多少出て行っています。大体血漿の1/3程度の濃度で間質液に存在しています。
ここから先は私の考えを書きます。
血管内と間質のアルブミンで濃度勾配による水移動がなされていると考えても間違いではありませんが、実際にはその存在比率は一定と考えられていますので、考慮する必要はほとんどないと思われます。ただし、炎症などで一過性に間質液やさらなる先へアルブミンが移動することにより、いわゆるサードスペースへの水の移動が起こると考えられます。つまり、炎症性に血管内のアルブミンが低下する場合、血管内容量を補完しようとアルブミンを投与することもありますが実際にはサードスペースへアルブミンを送り込むことにもつながり、むしろ浮腫を助長するとも考えられます。一時的に確かに利尿は得られますが、そのあとのアルブミンの挙動を考えるとマイナスになると考える方が自然です。つまり、敗血症や炎症性疾患の場合に、理論的にはアルブミンを投与する意義は、細胞外液だけでは何ともならない場合に血圧を維持するためだけと考えられます。

参考図書:薬学性のための生物薬剤学第2版、後藤茂、金尾義治著、廣川書店
posted by だっちょ at 22:46| Comment(2) | Q&A公開コーナー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月22日

大量出血時の薬物速度論(完)

回答編というと仰々しいが、私は極めてfundamentalなことを言いたいだけである。


薬物の投与量は、初回のローディングは分布容積に依存し、維持投与量はクリアランスに依存する、という大原則を考えると、治療経過中の用量はクリアランスの変化に依存して変化させる必要がある、ということである。治療経過中に分布容積を考えるとたいてい失敗する。

本件のように10Lが出血したという場合に、速度論的なクリアランスの変化を考える。そのためには、出血時間は何時間だったのか、ということを考える。例えば5時間の出血時間があったとして、まぁムラはあるだろうが、一定した速度で出血していたと仮定すると(well stirred modelのような仮定の仕方になるか?)、2L/hrの速度で出血していたわけである。血漿量ならば1L/hrとなる。血漿が失われるということは、血漿タンパク結合率を無視したクリアランスが得られるので、1L/hrの薬物クリアランスの増加を示すことになる。

ここで、投与量はクリアランスの変化率と一致するという大原則を考える。例えば、オメプラゾールを40mg/dayで投与していたとしよう。1時間当たりの投与量は40×1/24 = 1.7 mg/hrとなる。オメプラゾールのクリアランスは早く、20L/hrなどある。そこに1L/hrの出血クリアランスが5時間だけ加わったとするならば、クリアランスの増分が 21/20 = 1.05 倍なので、その5時間だけ1.7×1.05 = 1.75mg/hrへ増量、/dayで考えれば、1.75-1.7 = 0.05 mg/hrの増分を5時間、つまり0.25mg/dayの増量が必要である、と算出される。これが定量的に考えるというプロセスである。

オメプラゾールのクリアランスが早いためにかなり現実的には無視できる値となった。今度はクリアランスが小さいフェノバルビタールを考えてみよう。
フェノバルビタールは0.5 L/hr程度のクリアランスしかない。ここで100mg/dayで投与していたとしよう。1時間当たりの投与量は100×1/24 = 4.2 mg/hrとなる。フェノバルビタールのクリアランス 0.5 L/h に、1L/hrの出血クリアランスが5時間だけ加わったとするならば、クリアランスの増分が 1.5/0.5 = 3 倍なので、その5時間だけ4.2×3 = 12.6 mg/hrへ増量、/dayで考えれば、12.6-4.2 = 8.4 mg/hrの増分を5時間、つまり42 mg の追加投与が必要である、と算出される。てんかんやけいれん、鎮静コントロールがシビアな場合、私ならば追加投与を考慮する。

10Lという異常な出血と、フェノバルビタールという極度にクリアランスが小さい薬物の関係性でもこの程度の変化しかないことが、論理的な仮説と言える。

ちなみに腹水、胸水による滲出、漏出、熱傷などでも、それぞれ注意点はあるものの、同様の筋道で考えることができるはずである。

もちろん検証することが可能ならばやるべきだが、ヒトではまず無理だろうし、マウスモデルを作成して検証してまで得られるメリットが思いつかない。エビデンスレベルでいうと、A-III、RCTなどの根拠はないが、強く推奨される、といったところか。大量出血マウスモデルなんて扱いづらそうですしねぇ。あるんかな? カテーテルで脱血しながら輸血する、というモデルなら、まぁできないことはないのか。動かれたらカテ抜けそうなんで鎮静必要だけど、鎮静かけると血圧下がって脱血不良になりそう。やっぱり扱いづらそうですね。

今回の記事が、すぐには理解できなくても、目の前の症例があった際に計算する一つの参考になればうれしいですね。
posted by だっちょ at 00:44| Comment(4) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月20日

大量出血時の薬物速度論

6/18はJSEPTIC薬剤師部会セミナーに参加してきた。基礎からしっかり学ぶ機会を得ることができてとてもうれしい。
何より懇親会も楽しかったですね。お会いした方々との出会いを大切にしたいと思います。

さて、よく質問を受けるこの話。大量出血した場合に、薬物の体内への残量をどのように考えることができるのか。
先に答えを述べておくと、多くの場合問題ないことが、速度論の観点から定量的に述べることができる。とはいえ、しっかり考えると個別化医療にもつながることもある。実際にそういうアプローチをしたことがある。

今回の問題の発端は、”大量出血すれば、薬物の大部分が失われて、補充する必要があるんじゃないか” という疑問である。しっかりと定量的に速度論を考えよう。

そのためには、まず目の前の薬物がそもそもどのようなクリアランスや分布容積を持っているかを把握する必要がある。インタビューフォームなどから情報を整理していくことになるが、この作業の精度を上げることが薬剤師としての一つのライフワークであるといえる。極めて基礎的な話をすると、薬物の投与量は、初回のローディングは分布容積に依存し、維持投与量はクリアランスに依存するわけである。

今回のケースは、60kg の患者がベースとして薬物投与が行われていた中で、10 L の大量出血が起きた、ということを考えてみよう。薬物の分布容積の観点からは、最低でも細胞外液以上の分布容積 (0.25 L/kg) を持っている(今回は抗体製剤やグロブリン製剤の話はナシで)。とすると、細胞外液は 15 Lとなる。ならば、66%が除去されるためにしっかりと補充が必要か、という思考になるが、そうなると出血が起きた時点でどの程度の血中濃度があったのか?を考えなければならない。いつ投与して、今何時間たっていて、ということを考え出すと、なかなか答えにたどり着けないだろう。こんなことは毎回やっていてはならない。
ちなみに10Lの出血が起きた場合、血液量×(1-ヘマトクリット値) が血漿量になる。血球成分に分布しない薬剤(ほとんど)であれば、血漿量を考慮しておく必要がある。ヘマトクリット 50 % で 5 Lの血漿量になる。そうなると、33 % の除去になるのか。ちょっと影響が小さくなった。そもそも10L出血は異常であり、そもそもの血液量を超えているので、じゃんじゃん輸血している状態ではある。ということは、出血中にどんどん血液中濃度が薄まるので、最初想定した血中濃度よりもどんどん小さくなっているよね、、、じゃあ除去量はさらに小さくなる。どのくらい??  あれれれ??

という風に、ドツボにはまっていってはならない。つまり、ここで発想をしっかり転換していこう。その回答編は、また後日、ということで・・・

すいません、今日はもう眠いのです(^^;)
posted by だっちょ at 01:23| Comment(1) | 薬物動態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月08日

お疲れ様でした:第91回日本感染症学会総会・学術講演会 第65回日本化学療法学会学術集会

今回も多くの情報交換が出来て、多くの方とつながりが出来た学会でした。ACIDに参加していただいた皆様も本当にありがとうございました。ACIDはお互いの研究成果を提示しあい、建設的な議論からさらに良いものにしようという薬剤師の集まりです。これからもよろしくお願いします。


それと一つ追加で記事を書いておきます。2日目朝の特殊病態のシンポジウムの最後のセッション。HMD先生による肥満病態下の適正投与量の考え方がとてもわかりやすくて、勉強になりました。肥満と高体重は別であり、何が違うかが理解出来れば、定量的な投与設計ができるはずです。
そして最後に質問した点について、私の質問内容も十分でなかったと思うし、その真意などを理解していない聴衆の方も多かったと思うので、追記しておきます。ちょっと難しい内容であることに変わりはないので、そこをわかってもらうように説明することは、とてもchallengingです!

 質問は”基本的に維持投与量はクリアランスの変化を基に決定するべきなのに、今回のアミノグリコシド系薬は体重で決めている。その点どうお考えでしょうか。”ということなのだが、私の質問の仕方の失敗は、”肥満という病態下”の点を十分に質問内容の言葉に含めなかったことだ。大変申し訳ない。

 肥満の場合のクリアランスの変化について、HMD先生はしっかりと講演の中で述べておられる。ただ、アミノグリコシド系薬のピーク値を有効域に入れるために、分布容積の推定の点に絞って、わかりやすく説明しておられたわけである。特殊病態下における投与設計のシンポジウムとして、他の先生方は(私は最後しか聞けてないが)クリアランスの変化について維持投与量の調節の方法を述べておられたはずだ。CRRTにしろ小児にしろ、腎機能障害にしろである。では、肥満の場合に考えるべき維持投与量の調整はどのようなものがあるのか。

 アミノグリコシド系薬のPK/PDのターゲットとして、当然ピークを上昇させなければならないが、”それだけ”を考慮しすぎることには懸念するべきである。ピーク値で評価するために重要なことは、あくまで臨床薬理の根幹であるAUCが保てている、そろっていることである。仮に分布容積が通常と変化ない(0.25L/kg程度)で、クリアランスが500mL/minにまで上昇していたらどうだろうか。このくらい極端なところで考えてみるとよくわかる。一瞬だけピークが目標血中濃度に到達した段階で血中濃度を測定して”よしよし”、トラフ値で検出限界以下の値を測定して”よしよし”としているのは大きな誤りであることが容易に想像できるであろう。半減期は1/5に短縮し、すぐさまMICを下回り、その時間がずーっと続く、という血中濃度推移を予想できると、とても治療効果が得られないと考えることが正常の思考回路である。

 ”500mL/minは極端ですよ、だっちょさん!”という意見は最もで、そりゃ当たり前である。ならば、どの程度上昇すれば問題となるのか、そこを議論するべきである。アミノグリコシド系薬の場合、100%腎糸球体ろ過によって排泄される。すなわち、肥満の状態において、どの程度糸球体ろ過速度が上昇するのか、を考えればいいわけである。
今回のご講演の中で紹介していた論文をメモり忘れたが、例えばGFRは非肥満患者と比較してGFRと腎血流量はそれぞれは61%、32%上昇していたとの報告がある(Chagnac et al. J. Am. Soc. Nephrol. 2003; 14: 1480-1486)。ならば、投与量は1.5倍に上昇させるべき、と言えるわけであり、ここまで変化があるならば問題となると言える。昨今いわれているARCなどは、Ccrが1.2-1.5倍程度の上昇でやいやい議論がされているわけであるのに、このアミノグリコシド系薬は問題ないとは言えないはずである。

 じゃあ1.5倍の投与量増分をどこで補うか、という議論に移る。単純に1回投与量を上昇させても、その後の消失が早すぎれば効果は薄い。それに基本的に今のPK/PDの目標値は、最大殺菌効果が得られるところとなっているので、あまり上げすぎても効果増は得られない。となると、もっとも効果的な投与方法は、1回投与量は1.5倍に上昇させるが、ちょうどよいピーク濃度が得られるように、点滴時間を長めに設定することである。その点滴時間を設定するためには、各種ソフトウェアが効果を発揮するだろう。

こういうことが出来るのが薬剤師であり、医師にそのロジックと必然性を説明することで、よい信頼関係が築けるはずである。

この説を証明することは並大抵のことではない。アミノグリコシド系薬という使用量の少ない薬剤を、高度肥満という病態の集団で、証明された感染症を抽出して、アミノグリコシド系薬単剤で治療する必要があるためである。そして肥満患者とGFRの関係のモデルもしっかりと構築しなければならないし、除脂肪体重などの概念を取り入れることが良いと思われる。多施設共同試験を組まねば無理であろう。ただ、極めてchallengingなので、もしも興味がわいた先生がいらっしゃれば、ぜひ一緒にしませんか。




皆様今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
posted by だっちょ at 23:13| Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする